喘息のマネージメント薬剤師の関わり 
保険薬局の立場から


薬事新報 2000.12


[はじめに]
 医薬分業が進み、外来患者の生活管理に保険薬局薬剤師も積極的に取り組むべき時
代となった。特に、喘息患者は成人も小児も年々増加しており、また喘息患者の多く
は外来通院での管理が基本であるため、保険薬局が喘息患者に果すべき役割も年々増
している。
保険薬局薬剤師による服薬指導の弱点は、それぞれの処方医やその診療科の治療方針
がつかめないことである。それが、これまで当薬局を含め、多くの薬局が喘息患者に
対する服薬指導に躊躇してきた大きな理由であろう。しかし、近年わが国でも喘息に
おいていくつかガイドラインが示され、これらに従った標準的な治療が一般的となっ
た。このような背景から、保険薬剤師も以前に比べより積極的な指導を行える環境が
整ったといえる。新ガイドラインについての詳細は他誌に譲るが、周知のごとく成人
喘息患者の薬物療法はステロイド吸入が中心になった。
本文は本年7月1日、仙台にて開催されたクリニカルファーマシーシンポジウム「病気
のマネージメント薬剤師の関わり、−喘息と薬剤師−」の中で保険薬局の立場から発
言させていただいた内容の抜粋である。


■1.ドライパウダー式吸入ステロイド剤使用患者さんへの聞き取り調査
 服薬指導を兼ねてドライパウダー式吸入ステロイド剤を使用中の患者さん25名に聞
き取り調査を行った。

i 質問「どなたから使用方法の説明を受けましたか。」
医師から使用方法の説明を受けたのは9名、看護婦からは4名、当薬局薬剤師からは8
名、直接説明は受けていな患者さんは4名であった。最近では病院薬剤師も含め、病
院側での積極的な喘息指導がさかんになってきている。しかし、保険薬局では患者さ
んが吸入指導を受けているか必ず確認する必要がある。吸入指導は、最初の指導時よ
りも次回来局時が大切である。初回行った説明を理解し、実行しているか確認するこ
とである。また、継続的なチェックと問題点の把握が必要である。

ii 質問「この吸入剤を使用するようになってから症状は改善しましたか。」

 図1に結果を示した。はいと答えたのは16名(図1のコメント1〜4)、わからないと答
えたのは7名(図1のコメント5〜7)、いいえと答えたのは2名であった。コメント1「夜
中の発作がよくなってよろこんでやっている」6歳女児、というように小児にも使用
があまり難しくない剤形と思われる。コメントからもわかるように、若年層には「は
い」が多く、「わからない」あるいは「いいえ」と答えたのは高齢者に多かった。
コメント4には、「声嗄れもなくなった」という35歳女性の回答がある。しかし、嗄
声に関しては、施設により変化なしという意見、減少したという意見と、増加したと
いう様々な意見がある。これに対しシンポジストの東北大学医学部の田村 弦氏によ
れば、「おもいっきり吸い込む」と製薬会社の説明書に書いてあるが、理想は、吸入
速度は1,000 mlを1秒がよく、おもいっきり吸い込むよりも例えば肺活量が3,000 ml
の患者であれば約3秒かけて吸い込むのがよい。吸い込みが速すぎると声帯周辺に空
気の渦が発生してパウダーが声帯に付着し、これが嗄声の原因につながるとのことで
ある。

iii 質問「ドライパウダー式吸入剤の使用後にうがいをしていますか?」
図2は、徳永香代子氏ら(谷山会営薬局)が第17回望星薬局研究発表会で報告した
データより作図した。ドライパウダー式吸入ステロイド剤を使用中の患者さん92名
に、使用後のうがいの有無を尋ねた結果である。
「必ずしている」と答えたのは10歳代、50歳代、60歳代、70歳代に多い。「したりし
なかったり」あるいは「しない」は20歳代、30歳代、40歳代に多い。うがいをしない
理由の第一に、うがいの意義に対する認識が少ないことがあげられた。これ以外の理
由として、職場で使用後のうがいをする環境や時間がないことかあげられた。また80
歳以上で「しない」と答えた患者さんの理由の中には、足や腰が痛く、吸入後に洗面
所まで行ってうがいができないというものがあった。
一般的に、MDIやドライパウダーのタイプ、あるいはMDIにスペーサー使用の場合、気
管支に到達するのは約10%程度、容器に付着するのは約10%、口腔内には約80%の成分
が残るといわれている。この口腔内に残ったステロイド成分が、カンジダ、咽頭痛の
原因になる。これを患者さんにわかり易く説明する必要がある。
嗄声は声帯に残ったステロイドが主な原因であるため、うがいでは声帯の洗浄効果は
あまり期待できない。嗄声の予防にはスペーサーの使用がすすめられる。


 ivドライパウダー式吸入剤の利点と欠点
図3に患者さんが感じた、ドライパウダー式吸入剤の利点と欠点を示した。欠点の中
で、粉っぽく、口腔内に残るとある。これに対してはうがいをしても甘い味が残って
いるのは、賦形剤の乳糖によるものなので過剰な心配はしないよう説明する事で患者
さんが安心できる。
利点に「廃棄が簡単」とあるが、これはMDI の場合は穴をあけて廃棄する必要がある
ためである。
 今使用されているドライパウダー式ステロイド剤はディスクヘラータイプである
が、現在開発されているディスカスタイプはディスク交換の回数が大幅に減少する予
定である。


■2.印象深い患者さん
八王子薬剤センター薬局では、これまで喘息患者さんへの積極的な服薬指導は十分に
はできていなかった。今回、呼吸器内科の医師に申し入れ、指導の必要のある患者さ
んにの処方せんには「吸入剤の使用説明をお願いします。」という印を押して頂くよ
うにした。まだまだ発展途上であるが、今まで吸入指導を行った中から印象的であっ
た患者さんの例をあげる。


i. 印象深い患者さん その1 

「ドライパウダー式ステロイド吸入剤がうまく吸入できない。」
4年目の女性薬剤師が特に印象に残った70歳男性の患者さんの例を図4に示す。
2000年6月6日に、初めてドライパウダー式ステロイド吸入剤のフルタイドが処方さ
れた。患者さんは薬を受け取る際、忙しそうにして薬剤師の説明も受ける気持ちがな
いようであった。また、自分の考えていることと医師との指示があまりかみあってい
ない。やってみようという意欲も少ない感じであった。しかし、来局2回目以降、薬
剤師との会話の中から少しずつ意欲がでてきている。ゆっくりではあるが、喘息の自
己管理について積極性が認められるようになった。しかし、この後もテオドールの増
量などがあり、今後も継続的にフォローが必要である。

ii. 印象深い患者さん その2

「ステロイド吸入を行っていない。」
こちらも別の4年目(うち、2年間病院薬剤師経験)の女性薬剤師が特に印象に残った69
歳男性の患者さんの例を図5に示す。
2000年6月1日の患者さんの要望は「今まで喘息発作で死ぬ思いを何度もしている。
サルタノールでは昼の発作が抑えられないから、別の発作止めがほしい。」というも
のである。しかし、患者さんから聞き出したことによれば、「実はもらったアルデシ
ンはほとんど使用していない。MDI使用時に振とうもしていない。」とのことで、薬
剤師がステロイドの吸入の意義を説明し、スペーサー使用をすすめた。そして2週間
後の来局時には患者さんのほうから大変うれしい報告が得られた。「きちんとアルデ
シンを使い始めたら以前よりずっと調子がよい。」「サルタノールも昼効くように

なった。」とのことであった。薬剤師にとっても大変充実感を得られた例である。

■3.インターネットの喘息サイト
i. 患者さんが開設する喘息サイト
最近喘息のインターネットサイトが盛んである。喘息関連のインターネットサイトに
は、1.患者さん自身によるもの、2.患者友の会によるもの、3.病・医院・診療所によ
るもの、4.学会・研究会によるものなどがある。表1に喘息に関するインターネット
のウェブサイトの抜粋を示した。
今回は、喘息患者さん自身によるサイトについて述べる。患者さんが開設といっても
その多くが、専門医のアドバイスを受けている例が多く、中には数万件のアクセス数
を誇る有名サイトもある。

表1
喘息に関するインターネットウェブサイト抜粋

開設者 名称  URL
患者さん自身 Zensoku Web  http://www.fsinet.or.jp/~aichan/index.htm
患者さん自身 Zensoku Library  http://nonnon.milkcafe.to/
患者さん自身 星に願いを http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/7069/
患者友の会 すこやか村・喘息館 http://www.nifty.ne.jp/forum/fsky/fskya/
患者友の会 蒲公英の会  http://www2u.biglobe.ne.jp/~t_kouda/
医療関係者 東北大学医学部小児科 http://www.ped.med.tohoku.ac.jp/index-j.html 
医療関係者 西藤こどもクリニック http://www.kodomo.co.jp/asthma/index.htm
学会 日本アレルギー協会 http://www.vkn.co.jp/jaf/


ii. ウェブ上で気になった患者さんの発言
患者さんの喘息サイトには、その発言内容の高度なことに驚かされる。その中から、
気になった発言を以下に紹介する。

a. 熱意をもって医師に訴え、ステロイド吸入剤を処方してもらってよくなった体験
談。
この種の発言が多数散見される。実際当薬局でもインターネットにより得た知識によ
り、医師にステロイド吸入剤の処方とスペーサーをお願いした60歳男性の例がある。

b. 吸入ステロイドを慎重に減量しながら中止してみる体験。結果「早ければ一週間
以内で症状が悪化してくるのではないか。コントロールされてないのに中止するとマ
ジで危険」と発言している。

c. ステロイドのドライパウダーが口腔内に残りにくい吸入の仕方の提案。自分が工
夫して行っている方法を紹介。吸入が終了して息をゆっくり吐き出している時点で、
うがいを開始するという徹底ぶり。また、ディスクヘラーは水平にしていないとパウ
ダーがこぼれ落ちてしまうので改善の必要があるという提案や、気管支に効率よく到
達させるための二段階吸入法のすすめというのもある。

d. 自分の子供(小学生)に自分のステロイド吸入剤を使用させ、スペーサー、ピーク
フローメーターも指導、喘息日誌をもって今度医師に相談する予定の患者さん。ある
ピークフローメーターのオプションでくるくる回る風車があるらしいので、こんど子
供に会ってあげたいとも述べている。この患者さんは、PEF値(Peak Expiratory Flow
Rate)、吸入回数を日々ホームページにアップデートしている。


■4. 喘息患者さんの吸入服薬指導のポイント

以下に吸入服薬指導のポイントを示した。これには日本ファーマシューティカルケ
アー研究会(JASPC)会員の意見を参考にした。

1: 維持薬(予防薬)と救急薬(発作止め)の使い分けを説明する。
  ・特にβ刺激吸入剤の使用タイミング(早めに使用)について説明する。
  ・ステロイドとβ刺激薬を同時に使用するときは、β刺激薬を先に行う。
2: 吸入剤(MDI)は1容器で何噴霧できるのか説明する。
  ・使用規定回数を超えると、効果は期待できない。
  ・使用後は空にして穴をあけて廃棄する。
3: 使用後どうしてうがいをする必要があるのか説明する。
  ・通常、気管支には8%程度(スペーサー使用で約1.5倍)、口腔内に約80%残る。
    ・のどの奥もよくうがいをする。
  ・ステロイドの場合、口腔内・咽頭カンジダや喉の痛みの原因となる。
・β刺激薬では嚥下による心悸亢進もある。(逆に嚥下による全身吸収も期待される
ことがある。)
4: 指導は初回時のみにとどまらず、定期的に確認する。


■5. 課題

「病気のマネージメントへの薬剤師の関わり」
保険薬局の立場から、病気のマネージメントへの薬剤師の関わりについて考えた模式
図を図6に示した。患者さんは様々な外部環境と関連を持っている。その中でも病・

院との信頼関係が基本である。保険薬局は患者さんに対する薬局窓口での対応を第一
としながらも、治療方針に支障を来たさず、安全で効率的な薬物療法を行うために、
病・医院や病院薬剤部と密な連携をとる必要がある(薬-薬連携)。そのためには日ご
ろのコミュニケーションや情報共有体制作りが大切であろう。
一方、最近の患者さんは自ら自分の疾患やその治療法に対する医療情報を多方面から
収集しようとしている。インターネットにみられるように、その中には専門的で正確
なものもあれば、信憑性に欠けるものも存在する。我々は、患者さんの裏側にあるそ
のようなものも回り込んで積極的に取りにいく(巷の情報を収集する)必要があると思
われる。


■6. 考察と課題
1: 喘息患者さんのQOLを向上させるためには、まず、薬剤師が喘息管理を正しく理
解しなければならない。その上で、わかりやすく伝える方法を準備したり、患者の問
題点を探し、解決に向けて医療側との連携を築いていく必要があると考える。
2: 患者がくつろげる空間でゆっくりと説明できる環境作りが課題である。

文責 shimo

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