「薬局」7月号 特別企画 (2002.4新しく改変)
OTCとセルフメディケーション
医療現場で知っておきたいOTC薬の知識
八王子薬剤センター 下平秀夫、馬場晴美 ほか
1. セルフメディケーションの重要性の高まり
患者自身の医療に対する関心や自らの健康を自らの手で守ろうとする意識の高まりにより、セルフメディケーションの重要性が改めて認識されつつある。セルフメディケーションにおいて病気をコントロールする主役はまさしく患者であり、特にOTCの服用については患者(医療消費者)が自己決定権をもっている。しかし、その患者が本当の主役になれるためには、誤った選択をしないよう、医療従事者より適正な医薬品
情報が与えられるべきである。
2. OTCは医薬品
OTCは医療従事者が考えるより深く一般の人に受け入れられ、また、医療用医薬品よりも知名度は高い。OTCは全ての商品に患者用添付文書が添付されている。しかし、医療従事者にとってOTC情報はあまりにも少なく、関心も少ないといえよう。OTCはれっきとした医薬品であり、当然、薬効と副作用をもつ化学物質である。薬剤師はOTCのよきアドバイザーでなければならない。
3. 名前が似ていても成分が違う
バファリン、セデス、アリナミン、キャベジン、オイラックス・・・・これらはOTCでも、よく耳にする名前であるが、OTCと医療用医薬品とは若干組成が異なる。
OTCの場合、たとえば、バファリンでもアスピリンを含む製品と含まない製品があり、セデスでもピリン系の製品の製品、非ピリン系製品がある。また、オイラックスにも副腎皮質ステロイド(以下ステロイド)を含む製品と含まない製品がある。
本稿では、医療従事者に必要と思われるOTCの基本的な情報について、いくつかの例を挙げ解説したい。
4. OTCの小児用バファリンに血小板凝集抑制作用は期待できない。
周知のごとく、医療用のバファリン81mgやバイアスピリンは虚血性心疾患などの患者に対し、長期
投与による抗血栓効果を目的として投与されている。
一方、医療用のバファリンの成分がアスピリンであるのに対し、OTCの小児に用いるバファリン錠およびバファリンジュニア、バファリンエル錠の成分はアセトアミノフェンである。従ってOTCの小児用バファリンを服用しても、血栓を予防することはできない。
以前はOTCの小児用バファリンにも医療用の小児用バファリンと同じように、アスピリンが含まれていたが、1982年米国でアスピリンなどのサリチル酸系製剤とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告され、日本でも小児に対する投与に注意喚起が行われた。そのため、現在我が国では、OTCの小児用のかぜ薬や解熱鎮痛薬にアスピリンは用いられなくなっている。
厚生省医薬品等安全性情報No.151、No.157により、再度サリチル酸系薬剤の投与について注意が喚起された。アスピリン等のサリチル酸系製剤を含有する医薬品は15歳未満の水痘、インフルエンザの患者には原則禁忌であり、やむを得ず投与する場合には慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察する必要がある。
OTCは家族の常備薬として用いられることが多いので、小児への使用は避けるように注意する必要がある。サリチル酸系製剤とはアスピリン、エテンザミド、サリチルアミド、サリチル酸ナトリウム、サザピリンなどである。例えば、バファリンエルにはアスピリンは含まれないが、エテンザミドが含まれるので注意が必要である。
5. OTCにもピリン系薬剤がある -セデス、サリドン、プレコール-
医療用医薬品のサリドンやセデスはピリン系薬剤のイソプロピルアンチピリンを含むため、ピリン系、ピラゾロン系、アミノフェノール系薬剤に過敏症の既往歴がある患者には投与禁忌である。それに対し、サリドンやセデスでもOTCにはピリン系のものと、非ピリン系のものがある。サリドンエースと新セデス錠は非ピリン系であるが、サリドンAとセデスハイにはピリン系薬剤のイソプロピルアンチピリンが含まれている。
これらの以外にイソプロピルアンチピリンを含むものとして、医療用ではクリアミンA、クリアミンS、ソルボンカプセルなどがあり、OTCではプレコール、エザックエースなどがあげられる。
6. 同じ「チョコラ」でもOTCはまったく異なる
表4に同一名称を含むビタミンをまとめた。ポポンSを除く医療用医薬品のほとんどが主成分のみの単一組成であるのに対し、OTCは主成分の他に複数のビタミンが配合されている。医療用医薬品においてチョコラといえばビタミンAのことになろうが、OTCではビタミンAを含まないビタミンB製剤(チョコラBB)もある。
7. ビタミンEにも違いがある
医療用のユベラとOTCのユベラを比較してみると、ビタミンE成分に若干の違いがみられる。一般にビタミンEには、合成型ビタミンE(酢酸トコフェロール)、天然型ビタミンE(酢酸d-α-トコフェロール)、天然ビタミンE(d-α-トコフェロール)がある。医療用の「ユベラ」は、合成型ビタミンEである。
合成型ビタミンEの吸収率、生理活性を1とすると、天然型ビタミンEの吸収率は1.4、生理活性は1.36、天然ビタミンEの吸収率は1.9、生理活性は1.49になる。ただし、天然ビタミンEより天然型ビタミンEの方が安定である。つまり、ビタミンE成分が同量になるように服用した場合、医療用医薬品のユベラ錠よりもOTCユベラックスシリーズの方が効力が強いことになる。
8. OTCの痔の薬の多くにステロイドが含まれている
オイラックス、ボラギノールの名称を持つ医薬品で注目すべき点は、それらのOTCにはステロイドが配合されていることである。
現在、ボラギノールの名を持つ医薬品は2種類あるが、両剤ともステロイドは含まれていない。仮に、医療用のボラギノールで治療を続けていた患者が、坐剤が足りなくなって市中薬局のボラギノールA坐剤(酢酸プレドニゾロンを含む)を購入して使用した場合、より作用の強い薬剤を使用することになってしまう。
9. OTCの軟膏・クリームでもストロングのステロイドを含むものがある
現在、OTCに配合されているステロイドには、weakに属するものが多い。酢酸デキサメタゾン(ムヒアルファS、ウナコーワA)などがこれにあたる。医療用からスイッチされたものにストロングに属する吉草酸酢酸プレドニゾロン(プレバイン軟膏・クリームなど)もある。
10. 漢方薬 ー医療用医薬品とOTCのエキス含量の違いー
漢方薬の多くは、性質上長期に渡って服用するものが多い。しかし、現在漢方薬の長期投与は認められていない。市中薬局において、患者からOTCの漢方薬で代替えできないかという相談を受けることがある。一口にOTCといってもその数は多く、一つの漢方に対して様々な製剤が存在する。そこで、今回はカネボウの葛根湯に限定して、その成分量の違いを表7にまとめた。
カネボウの葛根湯だけでも、医療用、OTCあわせて6品目がある。そのうち医療用のカネボウ葛根湯エキス細粒とOTCの葛根湯エキス顆粒Aカネボウには同量のエキスが含まれており、剤形の違いを除けばほぼ同等と考えられる。
11. 骨粗鬆症の患者には、OTCのカルシウム剤併用をチェック
骨粗鬆症の治療において、ビタミンDとカルシウムを併用することがある。しかし、併用により高カルシウム血症が現れることがあるため、医療用の添付文書では、ビタミンD服用患者に対するカルシウム剤の投与は慎重投与となっている。骨粗鬆症で医師から処方されたビタミンDを服用している患者が、骨を強くするにはカルシウムがよいと考え、市中薬局でカルシウム剤を購入し服用していた。医師はそのことを
知らなかったが、だるい、気持ち悪いといった症状を訴えるようになったため検査したところ、高カルシウム血症であることがわかった、という事例が報告されている。
12. 最近のスイッチOTC
スイッチOTCが言葉として使われはじめたのは世界的にも、わが国でも、1980年前後といわれている。一般用医薬品の承認申請に際していくつかの申請区分があるが、その中で「新有効成分以上の有効成分であって、既承認の一般用医薬品の有効成分として含有されていない成分を含有する医薬品」に該当する。簡単にいえば、医療用医薬品であったものが、医師の処方せんなしに薬局で購入できるようスイッチされたものである。
これに対し、「新有効成分含有医薬品」は「ダイレクトOTC」と呼ばれ、発毛剤の
リアップなどがこれに該当する。
現在40成分以上のスイッチOTCが存在する。
2002年4月に新たに5成分のスイッチOTCが増えることになった。
1.プロピオン酸系非ステロイド消炎鎮痛薬「プラノプロフェン」・・・(ニフラン点眼が)
2.ベンジルアミン系抗真菌薬「塩酸ブテナフィン」(メンタックスが)
3.イミダゾール系抗真菌薬「塩酸ネチコナゾール」(アトラントが)
4.アリルアミン系抗真菌薬「塩酸テルビナフィン」(ラミシールが)
5.フェニルプロピルモルホリン誘導体の抗真菌薬「塩酸アモロルフィン」(ベキロンが)
また、PPAに代わる鼻充血除去成分として、塩酸プソイドエフェドリンと硫酸プソイドエフェドリンが新たに収載された。
13. 最後に
患者(医療消費者)がOTCをより効果的に、安全に利用するためには、薬剤師からの情報提供は不可欠である。そのためにも薬剤師は医療用医薬品の情報と共に、OTCの知識を得て、患者や他の医療関係者に的確に伝達できるよう努力をする必要がある。