学生および職員に対する医薬品教育の現状と問題点 
-教育、人員、設備の観点から-

保険薬局の場合 2002.2

文責 八王子薬剤センター 教育・情報  shimo
http://village.infoweb.ne.jp/~fvbb4740/

  学生および職員に対する医薬品情報教育の現状と問題点に対して保険薬局の立場からお話しさせて頂きたいと思います。私たちの薬局は、八王子市にあり、本局は、東京医科大学八王子医療センターの処方せんを主に応需し、支局(駅前薬局)は広域の処方せんを応需しています。

  [医薬品情報の職員教育]

 まず、医薬品に関して、職員に対してどういう教育を行っているかについて述べさせて頂きます。当薬局は東京薬料大学と八王子薬剤師会が経営母体となっており、薬剤師教育や研究にも力をいれて取り組んでいます。

 [患者向け栞]

 「わたしの健康とくすり」は毎月発行しています。新人は表紙の漢方薬の説明文を担当します。ベテラン薬剤師は「ちょっとお耳を」や「くすりQ&A」の執筆を担当します。
http://village.infoweb.ne.jp/~fvbb4740/BOOK/jouhousi.htm

「健康プラスワン」は健康や薬に関することがらについて、詳しく、けれどもやさしく解説します。

 [写真付き服薬指導CD-ROM]
http://www.jiho.co.jp/cd/fuku/f-main.html

 これは当社で発行しています。これも患者さんにわかりやすいことばで表現しています。薬効や注意事項をどう伝えるか考えるという作業が、情報教育の一環にもつながると考えています。この執筆には第一線でご活躍されている病院薬局の先生方にご指導を賜っています。 

[DIニュース]

 これは薬剤師向けの情報です。職員のほか、約130名の八王子薬剤師会会員に配布しています。例えば「この薬は多めの水で服用して下さい」という場合、その理由はなにかなど、これらをまとめて会員の先生方に読んで頂くことで、当薬局の服薬指導内容の見直しにもつながり、これが職員の情報教育につながると考えています。

[添付文書改訂のお知らせ]

 これは薬剤師向けの情報で毎月発行しています。

[病院の採用医薬品のお知らせ]

 どうしてこの薬が採用されたのかの経緯、長期投与の可否、服薬指導すべき内容などをコンパクトにまとめています。

[情報の受け手の共感を得る]

 情報の提供で重要なことは、「情報の受け手」にどうしたら受け入れられるか、一生懸命考えてから行動することだと思います。受け側に興味を持ってもらわねばなりません。

 これは、廊下の壁を利用したお知らせです。今月のおすすめコーナーとして、「白川さんのおすすめ」、「吉森さんのおすすめ」「馬場さんのおすすめ」です。読み物やトピックスの紹介です。とかくDIとは学術担当ですから、他の部署からみれば選ばれた、うらやましい存在です。本人達は自分が考えている以上に他の部署から厳しい目でみられていることを意識せねばなりません。情報の押しつけにならないようにで、きるかぎり受け手の事情に配慮して情報を提供する必要があると思います。

 受け手にも事情かあり、提供側にも事情があるので、歩み寄って共感しあうことが大切だと思います。

 「共感」するためには、全員参加の形態を導入することがよいのではと思います。その一環として当薬局では「新聞当番」というものがあります。一週間、一般紙の医療関連記事を切り抜き、ファイルします。その中からトピックスをとりあげて、ミーティング時に全員に紹介するというものです。

 

[処方せん疑義照会録の抜粋]

 医師への処方せん照会業務はその薬局の資質を問われる、大変重要な業務です。だからといって特定の薬剤師のみが担当するようなことはしていません。それは薬剤師となったからには服薬指導や疑義照会技術の向上が必須であるからです。これを可能にするためには、過去の照会事例を各々の薬剤師が徹底的に理解しておくことが求められます。このために当薬局では疑義照会録のコピーを全員に回覧しています。また、これも全員でローテーションしているのですが、一ヶ月ごとに担当者が「照会録抜粋」を作成し、ミーティング時に再検討します。ほとんど同じ背景でも、医療機関や、診療料や医師により結果が異なりますので、全員がその特徴を把握しておかないと、薬局としての対応ができなくなります。

 寂しいことですが疑義照会は薬剤師による薬理学的理屈が通らないことか多いのです。A医師に問い言わせたら「変更して下さい、ありがとう。」と返事がきても、B医師は「そのままでいいから、次回からこのような問い合わせは控えてほしい。」という感じです。病院と異なり、電話の向こう側の医師の顔が見えませんので大変辛いところです。特に広域処方せんを扱う薬局の場合、深刻です。ですから過去の照会事例は大変重要になります。ということで医療機関や診療科、医師の特徴や性格も現場においては大切な「情報」となります。

 [学生への医薬品情報の教育内容]

 重大な問題点として、学生は薬剤師国家試験に興味がずいぶんある、しかし職員は現場に興味がある、という大きなギャップがあります。第81回から新基準になってきていますので、我々も勉強しなければなりません。一方、学生も国家試験という目先のことだけでなく、将来のための勉強だと思って、お互いが歩み寄らなければならないと思います。http://village.infoweb.ne.jp/~fvbb4740/image/seminasmall.jpg

 1ヶ月実習と2週間実習の違いとして、従来の2週間実習は、興味のある学生のみが実習に来ていた、ということです。それでも途中で気が抜けてしまうことがあるのです。 これから全員が来るようになるというのは、やる気のない学生も現場で実習するということです。現場では実習期間前の準備は夜遅くまで必死です。今までも経験があるのですが、一生懸命教えても学生からの反応がなくて、担当薬剤師のほうが打ちひしかれてしまう。学生は教えられるプロであるのに、こちら側は教える側のプロではなく素人であるということです。

 それから、教える側の能力の限界もあります。今回わたくしもこのスライドを作るにあたつて医薬品情報について自分自身がどれだけ知っているか考えてみたのですが、全く勉強不足であることを痛感致しました。医薬品情報学というものを何も体系づけて身に付けていないということです。

 ところが、学生の要求は高い。講義は大学で受けているので、同じ様な内客では満足してもらえない。「そんなの大学で聴いたよ」とベテラン薬剤師もいわれてしまうことがあります。ひと昔前の学生なら現場の雰囲気に触れられただけで感激していましたが、地味で重要なことよのもカッコのいいものの方が印象に残ってしまいます。ですからこちらも多少モディファイして学生を喜ばせる工夫も必要かと思います。DIの講義はつまらないという学生の感想が少なからずあるからです。

 [八王子薬剤センター実習書]

 実習書はいままでも当薬局でも用意したものがありましたが、今回1ケ月実習用に大幅に書き換えました。A4判162頁です。当然この中に「医薬品情報」という項目もこざいます。前書きは、朝長教育・情報部長が情熱をもって執筆しています。学生にやる気を起こしてほしい、どうして実習にきたのか、あなたはどういう心構えでなければいけないか、ということがうたわれています。

 [DI実習の実際]

 病院と異なり、保険薬局には保険薬局のDIがあります。処方医からの高度な質問は、院内の薬剤師の仕事になると思いますが、保険薬局では、表現が悪いですが少しレベルの低い質問になるかと思います。例えば「6才の子どもの風邪薬はどんなのを出したらいいのか」、「どの薬なら長期投与できるのか」等。しかし、基本的な質問だとだからといって必ずしも答えるのが簡単とは限りません。開業医からの要求は論文などの資料でなく、どうすればよいのか、という直接的な答えであるからです。

 学生実習では高度ではないけれど現場で必要な問題をやってもらっています。例えば、「骨粗しょう症の病名で処方できる内服のカルシウム剤を探して下さい。」これは添付文書の基本的な部分が読めないと回答できません。これができるようになれば、CD-ROM等で模索してもできるわけです。また、「医薬品鑑別」が正確に行えること。次に迅速に行えること。次に正確に伝えられること、あるいは備蓄の類薬を告げることができるようになることとだんだん階段を上っていく訳です。

 また、「不備処方せんを与えて模擬的に疑義照会をする」ということも行います。また、「模擬処方せんの解析」も行います。

[設備]
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 本局は、1階の調剤室と侍台室にCCDカメラを取り付けてあります。実習室は3階です。3階から遠隔操作、右、左、ズームアップなどができます。内線電話で調剤室からの説明を聴くこともできます。3階のコンピューター端末も調剤室の端末と同じですから、処方情報や患者のプロフィールを含めた薬歴情報を参照することができます。ということで現在調剤中の処方せん調剤や服薬指導状況を3階にいながら説明することが可能です。この際、患者のプライバシーをどう考えるかが問題となると思います。

 大人数での現場の見学は監査ミスにつながったり、患者さんの迷惑になる場合がありますのでCCDカメラはかなり有用です。実習室は普段は会議室として使用しており、80人程度収容できます。

 [ロールプレイング方式で服薬指導の実際を学ぶ]

 こういう患者さんで、こういう処方がでています。という紙を学生に渡します。それで患者さんへ渡す服薬指導せんを全部手書きで書いてもらいます。学生は医薬品集や「医師からもらった薬がわかる本」などいろいろな書籍を参考にして作成する訳です。

 当薬局でも服薬指導せんはオンラインで出力できますが、あえて手書きでやってもらっています。患者の前で服薬指導せんを用いてどのように説明するかをイメージしてもらいたいからです。午後4時を過ぎますと幸い患者さんは待合室にほとんどいらっしゃらないので、実際の待合室で説明してもらいます。この場合薬剤師の役を演じるは学生で、患者の役はベテラン薬剤師がやります。写真は今年の1ヶ月の学生が実際にロールプレイングを行つているところです。また、医薬品安全性報告を実際に学生が作成しているところです。

 [薬剤師がどこから医薬品情報を入手するか]

薬剤師は大変多くの境所から医薬品情報を入手しています。しかし、ここに「薬科大学」が含まれていません。とても悲しいことですが。現場の薬剤師は薬科大学を情報源としてあまり求めていないのが現状です。これが医科大学と決定的に違うところです。これを解決するのは困難であると思いまが、例えば、地域の基幹病院や基幹薬局と情報を共有して学術的な質問を担当するとか方法があるのではないでしょうか。

[情報の受け手の責任]

 最後に情報の受け手の責任についても教育が必要だと思います。我々は情報の受け手を絶えず意識し、有用な惰報をわかりやすくリアルタイムに提供する責任があります。しかし、一方、受ける側もそれなりの責任があるはずです。知らない、あるいは知ろうとしない、知っていても行動しないというのは、患者の不利益につながる行為であるという認識を持って頂きたいのものです。うちの職場では今回の情報に対してこういうスタンスをもっている、これを徹底させたい。だからこういうアクションをしよう…と。「患者さんのために、公開された情報に関して責任をもつ。」ということです。