109回薬剤師国家試験メモ
現場の保険薬剤師の立場から「第109回薬剤師国家試験」の問題について感想を述べさせていただきます。
これまでの国家試験では法律などの変更があった場合には、あえてそれを避けて作問がなされていた風でしたが、今回の印象では、逆に新しく変わったところを知って欲しいという特に現場の薬剤師にメッセージ性の高い問題が多くみられたと思います。コロナ禍から明けて、リード文が充実して、作成された方々の熱意がひしひしと感じられます。
1.問題82
従来、薬剤師は患者さんに触ってはならない職種と、定められているわけでもないのに、自分たちでその可能性を狭めていました。このような背景から、2014年3月に厚労省で「薬剤師が医学的な判断や技術を伴わない範囲での「実技指導」として、外用薬の貼付・塗布・噴射について可能」と通知されました。すなわち、患者さんに塗り方を指導することは薬剤師が行ってよい行為ですよということで、これが文書として示されたということです。
ただし問題82の場合はバンコマイシン注によるTEN等の重症皮膚障害への緊急処置なのか、軽症の皮膚症状に対して軟膏を塗布するだけなのかは不明ですが「皮膚症状発現時の処置」という表現を用いて、薬剤師の役割としては不適切と答えさせています。この例が、塗り方の指導という例となっていれば、薬剤師が担当する役割として適切とみなされたと思い、今後の出題に期待したいと思います。(正解は5)
2.問318-319
薬局製造販売医薬品(薬局製剤)は「薬局医薬品」です。現場の薬剤師にも薬系教職員にもご存じない方が多いかもしれませんが、2013年の改正薬事法において、要指導医薬品及び一般用医薬品以外の医薬品は「薬局医薬品」として法律に位置づけられています。すなわち「薬局医薬品」は1.医療用医薬品(抗菌薬のような処方箋医薬品と、ロキソニン錠60mgのような処方箋医薬品以外の医療用医薬品)、および 2.薬局製剤が該当し、「薬局医薬品」は本来、調剤室外の陳列はできないことになっています。
ところが、2019年12月の薬機法改正によって2020年9月から薬局製剤については調剤室外への陳列が可能となりました。実務実習で古い知識を教えられていると回答を間違えてしまう問題であり、現場薬剤師へのメッセージ性が高いと感じました。
あと1点、私だけ気になるのかはわかりませんが、要指導医薬品・第1類を売り場のお客さんの手に届く陳列棚に置くのは不適正であると回答させる選択肢がありました。ただ、この陳列棚に鍵がかかっているのか、かかってないのかは記載されていないので、もし鍵がかかっていれば、不適正ではなく微妙な問題ではあると感じました。(わざわざそんなこと書く必要はないと判断されたのでしょうね)
OTC販売のルールについてはこちらにまとめました。
3.問320
「薬物濫用等のおそれのある医薬品」についての問題です。これも2022年から2023年に薬剤師会の研修等で周知されていたものでメッセージ性が高いと感じます。
2023年3月までは、濫用に注意する成分としてコデイン類、メチルエフェドリンについては「鎮咳薬」に限定されていました。しかし、OTCのオーバードーズ(薬物濫用)が社会問題となる中で2023年4月からこの限定が解除されて範囲が拡大されました。
そのような背景の中、問320では鎮咳薬ではなく、「感冒薬」の中で薬物濫用が問題となる成分という、この範囲の拡大を意識した問題が出題されました。(正解は1、2)
4.問326
「ポリファーマシーの解消」が薬剤師に求められ、地域支援体制加算の要件にもなっています。
この問題は病棟薬剤師のシチュエーションになってはいますが、保険薬剤師の減薬提案にも非常に有用なヒントになっています。
JAMA Intern Medという非常に信頼性の高い論文誌の論文で、降圧薬の数と生存率をカプランマイヤー曲線で表したものです。フレイルを伴う高齢者で血圧130未満の場合、降圧薬が複数処方されている場合には1剤の場合と比較して、2年生存率が10%以上も低下してしまうという非常にショッキングな結果です。
本例では、5種類の処方薬ですが、仮に複数医療施設から作用機序の異なる降圧薬処方箋が発行され、合計6種類以上であった場合、この論文と説明を添付したうえで減薬提案をすると「服用薬剤調整支援料」算定の対象とになりえると思います。ただし、「フレイルを伴う高齢者で血圧130未満の場合」であることが前提ですが、このような情報は在宅医にとってもインパクトが大きな情報と感じます。(正解は1)
5.問332
アスピリン喘息患者にアセトアミノフェンはほとんど問題とならない・・・これは現場の薬剤師には常識だったと思いますが、添付文書ではそうはなっていませんでした。ところが、2023年7月にやっと厚労省からこれを改善する通知がでたのをご存じでしょうか。こちらで説明!!
この問題では、アスピリン喘息のアレルギー歴のある患者さんに、アセトアミノフェンを発熱予防目的で処方してよいことを選ばせています。ただし、添付文書 9.1.8で注意喚起はされています。また、500mg以上で発作を誘発リスクが高まるので300mg以下にすることを医師に情報提供したほうがよいのではと思います。(正解は2、4)ご参考(福岡県薬)
6.問329
インシデント事例報告の典型のような事例「患者さんが服薬方法を間違えたためにネフローゼ症状が再燃」
シクロスポリンが継続処方されているネフローゼ症候群の患者さんに対し、爪白癬治療のためにイトラコナゾールがパルス処方された。シクロスポリンはCYP3A4で代謝され、イトラコナゾールはCYP3A4を強力に阻害するので、併用する場合にはシクロスポリンの減量が必用です。イトラコナゾールを服用している7日間だけシクロスポリンを減量して、その後は投与量を基に戻すという、おしゃれな処方のはず。
ところが、この患者さんは服用方法を間違えてイトラコナゾールを服用せずに、シクロスポリンだけ減量したので1週間後に浮腫とタンパク尿が出現してしまった。この対処としてシクロスポリンの濃度をモニタリングしつつ、シクロスポリンを通常投与量に復帰させるという提案を薬剤師が行ったという問題です。爪白癬の治療より、ネフローゼへの対応をまずは優先するという問題解決能力も問われています。この問題は、文章を読む力、対応力がないと理解できません。選択肢から逆に読み直した方が答えられるかもしれません。この問題は「高齢者の服薬間違い」「薬物相互作用」「問題解決/処方提案」という3つのテーマを含んでいます。この問題を作りあげるのにどれだけの時間が費やされたのか、過去の事例を参考にしたのかはわかりませんが、よく練られた問題だと感服。(正解は1、5)
7.問287
その他、心不全に対するFANTASTIC4というトピックス的な問題も出題されました。コロナ禍が明けてリード文などの充実から作問陣の熱量が伝わってきます。
以下は備忘録です・・・・
■問286-287
ドネペジルとワルファリンで治療中
問286 考えられる疾患
〇心房細動(ワルファリン処方による)、〇アルツハイマー型認知症(歩行障害なしのため×レビー小体型、梗塞巣なしで×血管性)
腰椎圧迫骨折で追加する候補薬
×テリボン(すでに過去24か月投与済みで使用不可)、〇ランマーク/プラリヤ、〇リクラスト(ビスホスホネート) ×ラロキシフェン ×ケイツー(すでに骨折を生じている重篤な骨粗鬆症にはエビデンスなし) ■問288-289
関節リウマチでMTX処方中。病状が進展したため治療薬を追加することに。
問288 追加薬の候補を2つ選べ
→〇ゼルヤンツ(JAK阻害薬) 〇ヒュミラ(抗TNF抗体)
問289 帯状疱疹を発症した理由として疑うものを2つ選べ
→〇メソトレキセートと追加薬